生きてえのだ

花と虫と海、それとさんぽが好き。



目次  

過去のこと

嗚咽

けむりに揺れるの 肉の親愛だという 解きほぐせない 解けそうにない誤解が 得体の知れぬ 遺言という生涯 夢まくらに立つ呪いが ドライアイスの水滴 ふき取ったの 夜通し おやすみ。 と交わした記憶を探すの ろうそくが照らす浄土 迷えばいい そんなの あっち…

五千百と一回目の朝に

きしむ便所にほつほつと したたり落ちる上階の足音 寝巻きのひだを掻き分け 髪を掴まれ側臥位、放置 箪笥の引き出しとは 絞りだす生気 一滴 におい立つ万年床をうがつ ビラ投函に目を覚ます シンクに溜まる 宛名を無くした会話を千切る 滲んだ思慕にこぼれた…

針せんぼん

風雪 散りばむ石畳 覗きこんだ水たまりに 欄干がぴゅうと揺らいだ 町が光彩を解き放つ モルタル 電柱のすき間には 暮らしがちりぢりと犇めく 降りしきる人情に振りこむ人和 廃車に雀卓 赤みさす老人 もろ手を掲げ グラフィティを背中に ならべ重ねて 焼津で…

無間

からだが動かなくても あたまはフル回転 あたまが回らなくても ふとんでスパンキング 万年床でも むせずにいる デスノートは 読み切れずにいる ネットの中傷に 眠れずにいた それなのに ケータイのあかりを たよりにする ドアが打ち震える 名前が飛び交う 震…

コンプレス

ひまわりのまる焼きが うなだれていた うたをしたためる こがねむしの光沢 複雑なクラスタ 数珠に つなげた構造は 原初より配列を リズミカルに引き継ぐ ポリリズムはふたたび 重なる理にあり たとえ無策に見えても 夕方 相見えるでしょう そんなお迎え予報…

顫音

産まれて 初めて 呼ばれた おそらく これが ほんとうの名前 父も 母も 知らなかった だれも かれも 悪くはないのだ 変わらない 変えられない ほんとうに申し訳ない 過去は振りきれない 悔恨は今さら 拭えない ならば丸飲みにして 味わえ そんなことは 君 馬…

どぼんの花、遠浅の記憶

どぼんの花 なまりの花弁したたり ちりぢり落つる 墨の河 千鳥足 嵩む格子に 胸をふさぐ 遠浅の記憶 廃屋と踏み切りの先 斎場を抜ける道に たたずむ 黒猫のえさ場に迷う 折れた歯は川に放った 一斉に羽虫が嗤う 化粧は より空虚になった 舌でねぶると 芯子が…

ひとでなし

浮き輪と回る少女に 流れ着いた欲望 鉄柵のこちら側 作業では差し歯も渇いた 今日なら吞んでも 同情されるか あいつが死んで 真っ先に浮かんだ これが病 といえば 許されるのか 本心 ならば誰が 愛してくれようか 雲のひだがせわしく ひるがえる こら、涙 お…

赤毛のかの女 左

「あたしは」 だれとも喋れなかった 授業中はいつも視線に怯える 当てられるのが怖くて 教科書は持たずに通っていた 途中で逃げ出すと 体育館のピアノに拾われる 先生に頼まれた伴奏は断りきれなかった なのに練習には一度も行けなくて せめて歌声は聴かなき…

赤毛のかの女 右

「彼女は」 だれとも喋らなかった 授業中はいつも寝ている 当てられるといつも 教科書を忘れたと言っていた 途中で出て行くと 体育館でピアノが鳴り始める 担任は彼女に合唱コンクールを任せた なのに練習には一度も来なくて そのうえ当日はというと 舞台を…

きぐるみ

中身をこっそり 覗き込む 肩口の歯形に ファスナーを探す 腹にチャックを付けてみる 中身とひっそり 手をつなぐ お金の数え方は 息をころして覚えた 中身が ねごとを言う明け方 上玉だ あばずれだ なんて阿漕な響きだ 知らない名刺 だれかの保険証 チャック…

レッドハウス

目が覚めると 汗ばんだ毛布は冷たかった なみだの代わりに洟がたれる 蛇口がくち汚く罵る あたまを突っ込んでかき回す タオルを探るより先、怒声を投げつける あの頃のあたしは 体育館で授業よりピアノ 放課後は誰かと押し問答 歌が好きな子だった あたしが…

水母ゆれる

にんげんもどろどろだ と思っていた時期もありました いわゆるなま肉だ と知ったのは十二の夏でした 片瀬江の島 ひらひらと瞬きます 待て と言いつけた水夫が 四つ足のいすにまたがり はっはと こぎ出すのです ぷかぷか浮くのです ぶくぶく泡ぶくのです あそ…

かもめ

あいつは海沿いに暮らしていた いつも風のように送り迎え みなとに抜ける三叉路のあたりで 夜がとりとめもなく波打つ いつしかこの部屋で 恥ずかしい日はドアの向こうで いってらっしゃいをしてから 二度目のおはようは会社にて 妹さんのお店に通い お母さん…

告白

スニーカーにジーンズを合わせて 黒い紙ぶくろを抱えて、私は探した。 彼はベージュのジャケットを着てくる。 顔は本の帯で確認していた。 数多ある空席の中、わざわざ 真ん中のテーブルを選ぶ意図が分からない。 こういう者です、と一枚のプリントを渡され…

前夜の氾濫

両の耳 小指の先をねじ込んでは 瞼落ち 心の臓 血流の音に 呼吸をゆだねる 腕がらみ 牡丹を破くとさ みつが溢れるのよ 「ひとりで生きようとすれば 人を頼らざるを得なくなり ひとりで死のうとするなら 後始末を押しつけてしまう」 こんな思案が存外可笑しく…

晩蟬の

餌場なら事足りた 池袋の生ゴミの狭間 空き缶を投げられ 鶯谷を渡り 寝床は段ボール 焚き火であぶり 縄張りも追われて 南下してきたアゲハ蝶 季節外れのカブトムシ 虫どもは寄り添い 車上で暮らし 捕食をまねび 襦袢で流した神楽坂 夜な夜な羽をひけらかし …

いつか庭先に吊るしてある

白膿の詰まる鉄骨の先に その器官はつながっている やさしく歪み 哀しく歪み 寝ている間にも歪んで あまつさえどこまでも犇めいていた 母は認知症の容に 父は後見人の容に 弟は保険屋の容に そして少女は母の容に 薄く柔いくちびる それは苦労をしていないか…

層雲

へし折れた田んぼの衣擦れに ちくちく西日が染みついた かぜが涼しさを練ると人は家路を急ぐ こうもりばかり目で追った 上を向いて歩いてばかりだ さっきも線路に躓いた ヴエッ、ヴエッと呼んだ者がいる 足のうらの蛙だった 洗濯、歯磨き、お手洗い 昨日でき…

個性

あんた誰 と言われてから、着飾るのをやめた Funky Stuff - Lizzy Mercier Descloux

サークル

薄いグラデーションの雨 エアリィな意識高い系 王子様はグラインドコアだって 落としどころはファストブラックで 朝食はコンビニ前 乙女でも二人前 ほんとはゴア表現が苦手 友達からでも無理ですって 年下なのにやわらぎ深く かわいい顔して信心深く おそら…

淑女H

年端も行かぬ少年が 老女のバッグを打ち捨てるのを見た 緑青の開いた目 くそみてえな大人になるぞ ちょこんと生えたまゆの手入れに 夕べの嗜好がにじり寄る ほほえむ、と 少年は目をそらした 富士見通りをぬるりと渡る 言われるように不死身と思う そのくせ…

六帖半

スリープも早々にだれもが消えた お向かいさんからチャイムが鳴る 月報の原本をひっぱり出す 壁かけの名前が少々、重いような おまえに嵌められた ということで、とにかく殴られた 引き出しに嘔吐する こっちはこれで金もらってんだ バラエティはくだらねえ…

這う

欠けたものは還らない 治らんものは治らない それでも覚悟は決められる

ひと筆

山波がいっそう黒澄んだ 鈍行列車で行く まっすぐ最後尾に身を投げる とにかく飛び込むのだ することは決まっているが しないことは決めていない 黒松に白濁の月 この町で磯の香りなど感じたこともない あたしは丸くかたつむり 蛇口を閉め忘れてジャグジー …

無代

無けなしのきぼう は賽銭箱に落とした

残堀川

燃えちゃった 燃えちゃった 酔い潰れて気づかなかったけれど 社殿近くの野焼き穴 ブルーシートが掛布団 枯れたお堀と踏み切りの交差点 ひっそり竈馬が跳ねるのを見た 産地にこだわるラーメン屋 そのまた向こうに定食屋 しのぎを削っているのだろう あたしが…

土いじり

うおおんと野山を駈け巡る 洗い場の水しぶきと一緒ね ハエ取り紙が真っ黒だから 布団をかぶって頬を張ろう 親方はユンボウで穴を掘っていた 仕事をくれる人は優しいよ にやにやのたまって 鼻がぐわあんと拡がってさ 終いにゃへそでがらごろ言う おめえ埋めて…

花子へ

「愛しているからね いつかどんなひどいことを言っても それは病気が言わせてるんだからね」 orionhanako.hateblo.jp

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